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「永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰って来る!―」
令和7年10月9日

黄葉する柏の木から、じっとこちらを見つめる黒猫の姿――。菱田春草(ひしだしゅんそう/1874〜1911)の「黒き猫」(重要文化財)は、猫好きはもちろん、そうでない人の心もつかんで離さない魅力があります。その初めての本格的な修理完成を記念した展覧会へ行ってきました。

ちなみに、作品を所蔵する永青文庫(えいせいぶんこ)では、「黒き猫」などの作品の修理費用の調達のため、初のクラウドファンディングに挑戦、見事に目標を達成したとか。作品の人気ぶりがうかがえます。

4階の展示室の奥に、いました! あの黒猫が。遠くから見ても存在感がありますが、近づいて見ると、漆のようにマットな黒なのに、空気を含んだようなフワフワの毛並み。この猫は、墨の巧みなぼかしで描かれています。金泥(きんでい)と緑青(ろくしょう)で描かれた柏の葉との取り合わせの妙に、画家のセンスを感じます。

菱田春草の「黒き猫」は、明治43年(1910)の第4回文展に出品され、好評を得ました。じつは、春草は当初、同展に六曲屏風を出品するはずが思うようにいかず、制作を中止。期日が迫るなか、わずか5~6日で「黒き猫」を描き上げたといいます。

永青文庫を設立した細川護立(ほそかわもりたつ/1883~1970)は、下村観山、横山大観はじめ同時代の日本画家の作品にいち早く注目し、蒐集しましたが、なかでも期待を寄せていたのが菱田春草でした。

しかし、春草は「黒き猫」を制作した翌年、36歳の若さで夭折。護立は春草の没後もその作品のコレクションを続けました。今回の展覧会では、春草作品全4点が前期・後期に分けて公開されます。

そのほか、近代日本を代表する画家たちの優品の数々も見ることができます。
巨匠の大作もありました。

近づいて見ると、葉や幹に「たらし込み」と呼ばれるぼかしの技法が用いられているのがよくわかります。

こちらも秋らしい画題。奈良・春日大社の境内の光景が描かれています。朝まだき、眠たげな鹿の図。

2階の展示室では、コレクター・護立が作品の入手経緯などを記した書付が展示されています。

なお、春草作品のうち「黒き猫」は前期のみの展示です。どうぞお見逃しなく。

重要文化財「黒き猫」修理完成記念
「近代日本画の粋―あの猫が帰って来る!―」
会期:2025年10月4日(土)~11月30日(日)
[前期10月4日(土)~11月3日(月・祝)/後期11月7日(金)~11月30日(日)]
※前期・後期で大幅な展示替えあり
会場:永青文庫
※詳細は下記公式サイトへ
https://www.eiseibunko.com/exhibition.html#2025aki






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