読みもの
第21回「びーこ ぶーこ」伊予弁
先日、実家に帰った際、懐かしい言葉を聞きました。スーパーで買い物をしていたら、近くにいた主婦らしき方が、一緒にいた小さな女の子に向かって「今日はびーこにしよか?」と尋ねたのです。お孫ちゃんらしき女の子は「おびーこ? どのおびーこ?」と聞いていました。
「びーこ」は、幼児語で「さかな」のことです。女性や女の子は「おびーこ」と「お」をつけて丁寧に言うこともあります。
幼児に向かってではなく、普通に使われることもあります。魚料理が大好きだった叔母は、懇意にしている漁師さんから活きのいい魚をたくさん買っては、「おびーこ、持ってきたけん、食べてんよ!」(おさかな、持ってきたから、食べてね)と我が家におすそ分けをしてくれていました。
食べるときだけでなく、水族館で魚が泳いでいるのを見るときも「びーこ、いっぱい泳ぎよるね」(さかながたくさん泳いでいるね)というように使います。
「びーこ」は近隣地域(愛媛県東予地方)以外ではあまり使われていないようです。それにしても、魚のことをなぜ「びーこ」というのでしょうか。最後に「こ」をつけるのは幼児語としてわかりますが、魚が「びーびー」鳴くわけでもなく、「魚」という漢字にも「び」がつくような読み方は思いつきません。幼児語のある魚とは対照的に、肉を意味する幼児語がないので、肉を常食するようになる以前の言葉だとは思うのですが、不思議です。
さらに、うちの方には「ぶーこ」「おぶーこ」という言葉もあります。これも幼児語ですが、「ブーブー」から想像されるような自動車を意味する言葉ではありません。これは水やお茶を指す言葉で、たとえば、汗をかいて顔を真っ赤にしている赤ちゃんに「おぶーこ、飲もうね」と言いながらあやしたり、逆に子供が「ぶーこ、飲みたい」と言ったりします。「ぶーこ」にはジュースやコーラは含まれません。
「ぶーこ」も「びーこ」と同じく近隣以外ではあまり使われないようです。もしかして、東予地方の民は「ば行」の言葉が好きなんでしょうか。確かに「びーこ、ぶーこ、おぶーこ」とあわせて言うと、語感は最高です。
(文/おかだなおこ)
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