読みもの

赤星たみこの八街やちまたオバンギャルド・ライフ

着物の話―その10「いろんな変化を受け入れながら」
令和8年9月16日
帯にフェイクファー?
 最近、着物をアレンジして着る人が増えています。簡単なアレンジとしては襟にレースをあしらったり、古着で裄(ゆき=袖の長さ)が短い場合は袖からレースが見えるように出して袖の見た目を長くしたり、帯にフェイクファーを使ったりと、ちょっと洋風テイストを入れるというもの。これは若い人がよくやっているようです。
 私も着物の基本構造は変えずに、小物を変えて着ることがあります。一番下に載せてあるプロフィール写真のように、半襟と帯を骸骨の柄にして、太いベルトを帯締め代わりに締めています。見た人からは「ロックだねえ」「奇抜!」と言われるのですが、でも基本構造は伝統的な着物と変わりありません。部品がちょっと違うだけなんです。

「嘘付き袖」はカフェカーテンで自作!
 このように表に出る部品を変えると、着物のイメージもとたんに代わってきます。でも、中身を変えた場合はどうでしょうか?
 私は着物をできるだけ簡単に着られるように、「美容襟」と「嘘付き袖」の襦袢(じゅばん)を自作しました。美容襟とは、昔からあるものですが、襟元だけを簡単に変えられるように作られた「襟だけの部品」です。
「嘘付き袖」も以前からあるもので、襦袢の袖だけを別に作ってあとから取り付けるようにしてあるものです。着物の下に長襦袢を着ているように見せるための取り外し可能な袖パーツとういうわけですね。
 ちなみに、言葉で嘘をつくのは、「嘘吐(うそつ)き」と書きます。嘘は吐(つ)くもので、付くものではないのですが、「嘘付き袖」の場合は、嘘の袖を別に作って付けるから、嘘付きの袖、と言うんですね。
 下のイラストを見てください。



 私が自作した美容襟は市販の美容襟よりも簡単なつくりで、ちょっと胸元がブカブカ浮きやすくなるのですが、たまに家の中で着るぶんには全く問題無し!これで出かけても見破られたことはありません(中は見えないので当たり前ですが)。
 嘘付きの袖のほうは、正式な襦袢の袖ではなく、カフェカーテンで作りました。カフェカーテンの裾がレースになっているのがかわいくて、それが袖の振りからちらりと見えるといいな、と思って作りました。

裾の長さは茶摘み娘スタイルで
 私はこうやって、着物を楽に着られるようにいろいろ工夫を重ねて着物を着ているわけですが、それでもやっぱり面倒くさい点があります。袂(たもと)のあつかいと裾の長さです。
 袂のあつかいは、家の中で着る場合に限りますが、前回ご紹介したようにアームカバーをつけることで解消しました。
 では、裾の長さはどうしたかというと、はい、茶摘み娘方式にしました!
 茶摘み娘がお茶を摘むときの恰好は、今では観光用ですが、昔は実際にあのくらい丈を短くして着ていたのです。裾を引きずるような長さでは、茶摘みという重労働はできないですよね。
 というわけで、私も裾を短くして着てみました。短くした状態で普通の帯を結ぶとバランスが悪かったので、太目のベルトを締めました。着物の襟が素肌に直接触れると汚れるので、中にはタートルネックのセーターを着ました。これは昔の書生さんがスタンドカラーのシャツを着ていたのと同じ感覚です。昭和中期頃にはウールの着物にタートルネックのセーターを合わせたのも見たことがあるので、この着方がそれほど着物のマナーに反しているとは思いませんでした。
 だって、切り刻んでいるわけではないし、丈を短くするのは茶摘み娘もやっていることだし、ベルトをするのは帯の代わりだし、襟を汚さないよう首を覆うタートルネックのセーター着ているし。



姿を変えながら成長していく着物
 確かに、皆さんこの私のアレンジを見て「着物に対する冒とくだ!」と声を荒げる人はいませんでした。でも、やっぱり「着物に見えない」と思う人は多かったのです。
 実際、この着方で外に出ると、これを着物だと気づかず、「え? これ着物なの? リメイクしたの? ワンピースみたい!」と言われました。そして、「いいね、これ! 私もやろうかな!」と好意的に見てくれる人も多くいました。
 今、日本中でタンスの肥やしになっている着物は一体どれくらいあるのでしょうか。何百万枚、いや、数千万枚以上あるかもしれません。去年の夏に近所の農家の方が、戦前からとってあるという祖父母の着物を譲ってくださいましたが、100枚近くあったと思います。ほとんどがカビていて、虫食いがあって、着られなくなっていました。その中で状態のいいものをいただきましたが、なんとも悲しい気持ちになりました。
 もっと早く見つけてあげれば私がワンピースみたいにして着たのに…。
 着物をアレンジすることに抵抗がある人もいらっしゃることは私も理解しています。でも、一切のアレンジなしだと、なかなか着づらく、捨てられてしまうこともあるのです。ちょっとアレンジして、楽しく古着を着てはいかがでしょうか? そうすることによって、正 式な着方も覚えます。新たに着物を誂えて着る機会も増えてきます。
 そうやっていろんな変化を受け入れながら成長していくのが日本の着物だと思います。

前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100951

●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。

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