読みもの
小鼓方・成田奏さん「小鼓という道具」#2
中世にさかのぼる伝統芸能である「お能」は、知れば知るほど面白く、人をひきつけて離さない魅力があります。でも、古い時代の言葉づかいや、ゆっくりした抽象的な動きなど、予備知識なしでは難しく感じてしまうことも。
そんなお能の世界の扉をぐぐっと開いてくれるのが「月イチ能楽講座」です。関西の若手能楽師のホープたちによる、軽妙なトークに迫力ある実演を交えての解説は「わかりやすい!」「楽しい!」と評判。前回に続き、メンバーの成田奏さんに、自身が演奏する道具(楽器)である小鼓について教えてもらいます。

月イチ能楽講座
東京・大阪・京都で毎月開催、毎回お能の1つの曲(演目)を題材に、能楽師シテ方の大槻裕一(おおつき・ゆういち/写真中)、小鼓方(こつづみかた)の成田奏(なりた・そう/写真右)、大鼓(おおつづみ)方の河村凜太郎(かわむら・りんたろう/写真左)が、若いエネルギーとみなぎる情熱、関西ノリの話芸とキレのある技で、たっぷり解説。オモシロ企画満載のインスタグラムも必見。スマホアプリRadiotalkで聴ける「週イチラジオ」は日曜日18:30〜(予定)配信中。
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音色を打ち分ける
小鼓が「皮」「胴(どう)」「調べ/調べ緒(お)」の3つの部分から成ることついては、前回書いたとおり。演奏する前には毎回、これらのパーツを組む。2枚の皮を胴の両端に当て、調べ緒を皮の穴に通して締め、組み上げる。

前回でも触れたが、小鼓には個体差があり、皮と胴の組み合わせによって、音色も異なる。さらに、調べ緒を左手で操作することで、皮の張り具合を変え、音色を打ち分けることができる。調べ緒を強く握って皮をピンと張らせると高い音、緩めると低い音が出る仕組みだ。
小鼓を打つときは、背筋を伸ばして座り、左手で小鼓を持ち、右の肩口に軽く乗せて構える。このとき持ち手の左手で調べ緒をつかんだ状態で、右手を下から上へ振り上げるようにして打つ。

では、打ち分ける音色について、僕が師匠や父に習った教えを踏まえて説明してみよう。
「ポ」という音は、左手で調べを軽く握って右手で打ち、左手をすぐに緩める。そうすることで、余韻の音が引きすぎず、歯切れ良く聞こえる。ちょっとややこしいのだが、この音の名称を「ヲツ」という。申し合わせ(本番前に諸役が集まっての確認作業)のときなどに「この部分は『ヲツ』で打ちます」といった言い方をする。
次に「チ」という音。これは「ヲツ」よりやや強く調べを握り、薬指で小さく打つ。名称を「カン」といい、水気を含んだような「ヲツ」に比べて、乾いた感じの音色だ。
「タ」という音は、最も強く握り、中指と薬指で強く打つ。名称は「カシラ」だ。
「プ」という音は、最も緩く握り、低い調子で打つ。名称を「ホド」という。
最後に「ツ」の音だ。通常は打った後に右手を腿辺りまで下ろすのだが、「ツ」は親指を皮の縁につけたまま手首を外に返し、皮を抑えるような打ち方をする。少し特殊な扱いのため、あまり打つ機会はないが、意外と難しい。この音には、なぜか名称はない。
以上の5つの音色を打ち分けるのだが、これは基本の打ち方であって、いつも同じ音を出すわけではない。小鼓方は、場面や雰囲気によって、少しずつ音色を変えて打っている。そこが小鼓の面白いところで、奏者の感性で音色にニュアンスが与えられる。遊び心を加えたり、馴染む方法を模索して、トライ&エラーで自分の音色をつくりあげていく。

小鼓を鳴らす工夫
道具を組む際に「調べ」をどの程度の緩さで掛けるかは、奏者によりそれぞれ好みがある。「〇〇先生はめっちゃ緩いけど、どうやってあんなええ音鳴ってるんやろ」「〇〇さんは調べカチカチやなぁ」といった感じである。左手の操作と右手の打ち込みは、この調べの緩さ具合で変わってくる。よって、他人が掛けた小鼓は使いこなせない。
僕の掛け方には僕なりのやり方があるが、人には言わないことにしているので、詳しくは明かせない。基本的には、硬めにしておいて、強く打つことを心がけている。緩いと強く打ち込んだときに調子が狂ってしまうためだ。緩さのバランスを保って、常に良い音で鳴らせるのが理想である。

もうひとつ、小鼓の音色に影響するのが、湿気である。乾燥によって皮が締まりすぎてしまうと、高く硬い音色になってしまう。良い音を出すためには、小鼓の皮がほどよく湿り気を帯びていることが大事なのだ。
そこで用いるのが、和紙を小さくちぎった「調子紙(ちょうしがみ)」だ。打つ側とは反対の裏皮に湿らせた調子紙を貼り、和紙の水分と重みで皮の振動を抑え、音色を調整する。その日の天候や会場の湿度に合わせて、小鼓方は演奏中も皮に息を吹きかけたり、指をなめて調子紙を触ったりと、微調整に気を遣う。それほどに、小鼓は繊細な道具なのである。
お手入れはほどほどに
小鼓の手入れはほどほどにするものだ。皮や胴は、拭きすぎても傷つけてしまうので、調べ緒を外した後に、手ぬぐいなど木綿の布で、やさしく拭く程度。汚れがあれば少し湿らせて、やはりやさしく拭くようにする。

麻紐の調べ緒は、手の汗や皮脂で汚れたり、皮が擦れる部分が傷んだりするので、しばらく使ったら長さを調節して、ずらして使うようにしている。色褪せて全体が毛羽立ってモケモケになってきたら交換するが、高価なものなので、なるべく長持ちさせたいのだ。
小鼓を保管しておくときは、湿度の多い場所や直射日光を避け、しまいっぱなしにしないようにしている。皮に皮脂が付いたままだとカビが発生するので、要注意だ。
また、この連載で大鼓方の河村凜太郎君が、手の保護具やケアについて書いていた(↓)が、小鼓の場合はどうだろうか。
[https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100926]
小鼓を打つ衝撃は、大鼓に比べればかなり小さいように思う。大鼓方のように保護具を用いることはなく、素手で打つ。それでも、やはり一日に何番も打ったりすると、翌日まで右手に痛みが残ることがあるので、そんなときは、冷やしてケアするようにしている。
以上、小鼓について書いてみた。実際に演奏を聴いてみたい方は、月イチ能楽講座へぜひお越しください!
前回の記事は↓
https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100