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百味ひゃくみ御食おんじき

談山神社・嘉吉祭かきつさいの特殊神饌<4>
令和8年9月22日

 奈良県桜井市・談山神社の「嘉吉祭」で供えられる「百味の御食」は、古式ゆかしい独特の形式をもつ特殊神饌(しんせん)。約30種類からなる神饌は、毎年、神職や氏子さんの奉仕により調製・準備されています。例年、お祭りを前にした10月第2水曜日~金曜日の3日間には、奉仕者一同が社務所に集まり「御供(ごく)盛り」と称する調製が行われます。ここで紹介するのは、令和7年の「御供盛り」の様子です。

毛の生えた神饌?

「百味の御食」のなかでも、調製にとくに手間暇がかかる神饌は、奉仕者がそれぞれ自宅でつくったものを神社に持参します。完成し、神社に持参された神饌のなかに、これまた不思議なカタチの御供がありました。

 円柱状の本体には動物のような長い毛が生えていて、てっぺんには赤い酸漿(ほおずき)が乗り、下のほうには木の実があしらわれています。その姿かたちは、火が灯った蝋燭(ろうそく)のようにも見えます。


 これは「毛御供(けごく)」または「荒稲(あらしね)御供」と呼ばれる神饌。毛のように見えるのは、長く伸びた古代米(こだいまい)の禾(のぎ=穂先の部分)です。連載の<1><2>で紹介した「和稲(にぎしね)御供」とも称する「米御供(こめごく)」と対をなしているようでもあります。

 毛御供は4人の奉仕者が1人1台を担当し、4台つくられます。そのうち2台は白色、1台は黒色、1台は赤色の古代米の籾(もみ)が用いられます。品種改良される以前の稲である「古代米」には、多くの種類があり、さまざま色や形のものがあるのです。

 古代米は、長い禾があるため害獣や害虫を寄せ付けにくい一方、丈高のため風害に弱く、食味に劣るなどの理由から、一般には作られなくなりました。談山神社では毎年、近隣の田を借りて、毛御供のための古代米を育てています。そのうち黒色の古代米には「談山」の品種名がつけられているそう。令和7年は初めて広く一般からの参加も募り、6月下旬に田植え、9月下旬に稲刈りが行われました。

 毛御供に用いられる神饌台には、上部が太く、下部が細い芯がついています。調製では、まず酸漿を芯の上部先端に糊(のり)で接着します。次に、酸漿の根元から、禾つきの古代米の籾を一粒ずつ、禾が上を向くように糊で貼り付けていきます。上から下へ敷き詰めるように籾を接着したら、下部に木の実を3段分、糊づけします。木の実は、白と赤の毛御供には榧(かや)の実、黒の毛御供には銀杏(ぎんなん)を用います。また、毛御供には餅粉(もちこ)の糊が用いられます。

 禾を活かした遊び心あふれる毛御供のデザインに、あっぱれです。

「鎌足さんのお弁当箱」

 御供盛りが行われている広間の一角では、ビニールシートの上にわんさか積まれた稲藁(いなわら)を前に、男性陣が作業中。こちらでは、「飯御供(いごく)」と呼ばれる神饌を準備しています。


 上写真の左側で長方形の木の箱を前に作業するのは、氏子の六條庸行(ろくじょう・のぶゆき)さん。中央では氏子の辻本良夫さんが、稲藁をそろえています。右側では、神職の佐草充崇(さくさ・みちたか)さんが作業についてメモを取っています。かつて「百味の御食」の調製は、神社が鎮座する多武峰(とうのみね)の氏子にしか許されませんでした。しかし近年では、多武峰の集落は戸数を減らしつつあり、調製を担う氏子さんの数も少なくなっています。神社側でこうして記録を残し、継承していくことは、より重要な課題になっています。

 長方形の箱は、杉板を組み立て、四隅に半割の青竹を被せたもの。この箱に、稲藁を一本一本回しかけ、編みつけていきます。


 これは昔の旅用の弁当箱を模したもので、両側の蓋の一方は取り外しがきき、中身を入れられるようになっています。「百味の御食」は談山神社の御祭神・藤原鎌足公に献じる神饌ですが、なかでも飯御供はこの箱に入れてお供えすることから「鎌足さんのお弁当箱」とも呼ばれています。

 男性が2~3人がかりで長い稲藁を束ねて綯(な)い、注連縄(しめなわ)をつくります。箱に結んで飾るための注連縄で、左綯いのものを2本つくります。


 注連縄は、長い稲藁を継ぎ足して綯っていきます。材料の稲藁は、昔は氏子の各戸が持ち寄っていましたが、昨今の稲藁は背丈が低く不向き。そのため、近隣の農家に協力してもらい、古代米や糯米などの丈の高い稲藁をとっておいてもらっています。

 飯御供の調製にあたる奉仕者は、今回が2回目という1人を除けば、初めての人ばかり。長らく奉仕していた古老の氏子さんに習って「見よう見まねでつくっている」とのこと。「難関はどこですか?」と訊くと、「ぜんぶ難関」との答えが返ってきました。


 綯い上げた2本の長い注連縄を箱にかけ、輪をつくって飾り結びにし、麻緒(あさお=麻の糸)で束ねます。飛び出た藁をちょんちょんとカットして、きれいにして仕上げます。


 完成した「鎌足さんのお弁当箱」は、社務所広間の床の間に仮置きされました。お弁当箱の中身は、嘉吉祭当日の朝に入れます。 

カラフル!なお餅の神饌

 こちらでは、大きな四角い餅に、食用の染粉を溶いた染料で色を塗っています。筆を取るのは、神職の宮本隆晴さんです。


 これは「倉餅(くらもち)」と呼ばれる餅の神饌。お供えでよくある丸い鏡餅とは異なり、真四角です。糯米(もちごめ)2升分で、四方が約28センチ、厚さは約4センチのビッグサイズ。上になる面を対角線で分けた4分の1ずつの面積を、赤、黄、緑に塗り分けます。


 色を塗らない白い部分を含め、4色のカラフルな倉餅が出来上がりました。倉餅は倉の屋根を表し、家の繁栄を願うものといわれます。色鮮やかで、おめでたい雰囲気をまとった神饌です。


 嘉吉祭では、神饌とともに、青葉の楓と紅葉の楓の枝が2本ずつお供えされます。御供盛りでは、楓の枝に付ける団扇(うちわ)と扇をつくります。団扇は「トンボ」とも呼ばれ、文字どおり昆虫のトンボのような形ですが、これは楓の種子の形を模したものともいわれます。扇は畳んだ形です。どちらも竹でつくった骨組みに色和紙を貼り、団扇は赤と緑を各4本、扇は赤と緑を各2本つくります。

 神様がお使いになる箸である「神箸(かみばし)」も忘れてはいけません。太鼓のバチのように太い箸を、赤と緑の和紙を重ねてきれいに折り畳んで包みます。

 こうして、神職さん、氏子さんらの共同作業による御供盛りで、盛りだくさんの「百味の御食」が調(ととの)えられました。


 次回は、嘉吉祭前日の宵宮祭(よいみやさい)の模様などをお伝えします。


[取材・文/中尾千穂]

百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<3>は↓
https://www.nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100953
百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<2>は↓
https://www.nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100954
百味の御食 談山神社・嘉吉祭の特殊神饌<1>は↓
https://www.nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100948

談山神社の公式サイトはこちら↓
https://www.tanzan.or.jp/
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