読みもの

連載 方言「知らんけどね」

第31回「なんとんつくれん」熊本弁
令和8年8月20日

第31回「なんとんつくれん」熊本弁
 前回、「通じん」の意味を説明した。それは「分からない」や「理解できない」ことを強調する方言で、言ってみれば、私の中に「通らない」「通ってこない」とでも言わんばかりの言葉だった。
 そして「ひとつも」の意味を表す「いっちょん」と併用し、「いっちょん通じん」で「少しも分からない」ことを表現しているのだった。
 しかし、この「いっちょん通じん」にはもう一つの意味がある。これは「少しも通じない」ということで「便秘」を表すのだ。つまり「まるでお通じ●●●がない」のである。
 だから例えば「トランプの言っていることはいっちょん通じんね」と誰かが言った場合に「きっと便秘ばい(便秘なんだろうね)」と返すと、笑いをとるか、白い目で見られるかのどちらかなのである。
 そして、今回のタイトルにした「なんとんつくれん」である。これも「通じん」と同じような意味になるが、そこに「どうにもよく分からない」といったニュアンスが加わる。これは「なんとん」と「つくれん」に分解できる。「なんとん」は「何とも」で、「つくれん」は「作れん」、つまり「作られていない」で「完成されていない」ことを表しているのだと思う。
 ネットの方言辞典を見てみると、この言葉は「役に立たない」とか「つまらない」を表すとされているが、それではこの言葉のニュアンスは分からないと筆者は思うのだ。
 用法は以下になる。
「なんとんつくれん格好ばしとるね」(格好いいのか悪いのか、どうにもよく分からない服装をしているね)。
「なんとんつくれんことば言いよっぞ」(何を言いたいのかよく分からないことを言っているね)。
 しかも、この表現を使う時は、非難というより、あきれて言うようなニュアンスなのである。なんとかこの言葉の成り立ちと思われることを説明してきたが、まさしくこの言葉自体が「なんとんつくれん」なのである。このような方言は多い。
 例えば、これは福岡もそうらしいが「ものもらい」のことを「お姫さん」と言っていた。しかも、下まぶたにできるのが「お姫さん」で、上まぶたにできるのが「お婿さん」「お殿さん」とも言っていた。筆者が子供の頃には、母親に「おひめさんができた」と言うと、「櫛の背を畳でこすって熱くして、それを(ものもらいに)当てなさい」と言われていた。実際、そのほんのりとした熱さは心地よく、それを繰り返すとものもらいは無くなっていったのである。
 まさしく「なんとんつくれん」話ではあるが、次回は、このような方言を紹介してみたい。予告編を書いておくと「まっぽし」「あくしゃうつ」「じゅったんぼんごたる」などである。
文/伊豆野 誠
前回は https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100933


 
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