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完璧じゃないから笑われるかも……さあ、ここからは日本の暮らしから着物離れが止まらない内的要因をワタクシが考察してまいります! キーワードは「完璧主義」と「思いやり」です。
日本人の完璧主義はよく知られています。海外で開発された機械を、日本人がさらに改良改善して完璧なものにしてしまうという例を聞いた方も多いでしょう。こういう場合の完璧主義は悪いことではありません。
でも、着付け教室で習った着付けをして、思うように着付けられなかった時、「完璧じゃないから笑われるかも……」とか、「ここが完璧じゃないから人前に出るのは恥ずかしいな」と自制してしまうのはちょっと残念です。もっと軽い気持ちでチャレンジして、失敗したらそれはそれ、また次頑張ればいいことじゃないですか? もっと緩く考えて気軽に着物を着たらいいのに…と、いつも思っています。
この自制してしまう完璧主義も問題ですが、そんな着物初心者のやる気や勇気を削ぐのが着物完璧主義者、いわゆる「着物警察」の方々です。この、教える側、口を出す側の完璧主義、こちらが実はものすごく問題なのです。
私が着物警察という言葉を知ってから20年以上になりますが、彼女たちは自分が知っている知識を総動員して、他人の間違いを思いっきり正してしまう完璧主義者です。着物に関するルールや教えには、「○○のほうが△△よりいい」という緩いものがありますが、完璧主義者はこれを「○○じゃなければダメ! △△なんかもってのほか!」という風にエスカレートしてしまうことがあるのです。
私はこれを「完璧主義者のルールエスカレートの法則」と名付けました。

桜の季節に桜の柄を着るのは野暮ですか?
この法則の例を2点、ご紹介します。まずは着物の柄(がら)についてです。着物の柄は季節を先取りするのが粋でおしゃれ、とよく言われます。桜の季節のちょっと前に桜の柄の着物を着ることが粋だ、ということですね。
では、桜の季節真っただ中に桜の柄を着てはいけないのでしょうか? いいえ、そんなことは絶対にありません! なのに、完璧主義者は「桜の季節に桜の柄を着るのは野暮(やぼ)ですよ。もう少し前に着ないとダメ」とか言ったりするんですよ。私も言われたことがありますが、「私、野暮なんですよ。季節ごとにアイテム揃えるお金もないし、あるものしか使えないですしねー」といってスルーしちゃいました。
でもね、季節を先取りするのがおしゃれ、というのはルールでもなんでもなくて単なる好みの問題なんです。それをあたかも絶対守らねばならないルールとして受け止めてしまって、他者にも押し付けてしまうのが、「完璧主義者のルールエスカレート法則」なんですよね。
ちなみに作家であり着物デザイナーでもあった宇野千代さんは、生まれ故郷である山口県岩国の風景を象徴する桜をこよなく愛し、季節を問わず一年中「桜柄」の着物を着ていたことで知られています。彼女の自由で前向きなスタイルにあやかりたいものです。
江戸時代の衣替えのルール
2点目は衣替えのルールです。完璧主義者の着物警察の方々は、着物の種類(仕立て方)によるルールも厳格に守ります。
着物は大きく分けて袷(あわせ)、単衣(ひとえ)、薄物(うすもの)に分けられます。ごく簡単に言うと、袷は裏地がついているので暖かく、秋・冬・春に着用。単衣は裏地がなく、初夏・夏・初秋に着用。薄物は透ける生地で作られていて涼しいので盛夏に着用。というルールです(具体的には、袷は10月~5月、単衣は6月~9月、薄物は7月~8月)。
でもこの温暖化の今、外が30度超えなのに、5月(春)だから袷を着ないとダメ、薄物は着ちゃダメとか、いったいいつのルールだよ!? と思いませんか?
実際、この仕立てによるルールも時代によって変わっていて、江戸時代の衣替えのルールは、『日本生活史辞典』(吉川弘文館)によると、こんな感じです(日付は旧暦です)。
4月1日~5月4日は袷
5月5日~8月末は単衣、帷子(かたびら/麻布でできた単衣の着物)
9月1日~9月8日は袷
9月9日~3月末は綿入れ
なんと、袷、単衣、薄物だけではなく、綿入れという区分もあって、一年のうち7か月近くが綿入れだったんです! 江戸時代は今よりもずっと寒かったといわれていますが、それにしても綿入れが長いですよね。袷は2か月ちょっと、単衣が3か月です。
現代では綿入れを着なければならない!というルールは消滅しています。
でもこの綿入れを着る時期のルール、明治になってもしっかり守られていたようです。幸田文の小説「きもの」は、明治から昭和初期までを生きた主人公「るつ子」と着物をめぐる物語です。るつ子の家は一般庶民ですが、小説を読んでいると、3月末日までに袷の着物を用意して、4月1日からはきっちり袷を着るのが当たり前だったことがわかる描写があります。周りの家も、女学校の友達も、るつ子の家と同じようにきっちりルールを守っていたこともわかります。「きもの」は昭和に書かれた小説ですが、明治34(1904)年生まれの幸田文の記憶ではしっかりルールは守られていたのです。
ところでみなさん、「四月一日」と書いて「ワタヌキ」と読む名字があることをご存じですか? これは難読名字として有名で、クイズにもよく出てきます。「4月1日=綿を抜く日=綿抜き」から来た名字。4月1日から袷になるというのは、名字にもその風習が残っているくらい、日本中で当たり前に守られていたルールだったことがわかります。
わずか100年ほどで衣替えのルールはここまで変わっているんです。今の気候にあわせて変えていくのがおかしいなんていうことは、ないのです!
次回も引き続き着物離れが止まらない内的要因を考察してまいります。お楽しみに!
前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100931
●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。
