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前回に引き続き、皇室祭祀のうちで最も重要な祭典である新嘗祭(にいなめさい)について紹介します。
当日、午前から神嘉殿は整えられます。夕刻に天皇陛下は三殿後方にある綾綺殿(りょうきでん)に入られ、御祭服(ごさいふく)を身に着けられます。一方、綾綺殿の近くにある東宮便殿(びんでん)には皇嗣殿下が入られ、斎服を着けられます。その後、掌典長が祝詞(のりと)を奏上し、陛下が神嘉殿の中の隔殿(かくでん)に入られます。この時、宮中に伝えられてきた皇位の証である剣璽(けんじ/剣と勾玉)も動座され、陛下のそばの台上に奉安されます。続いて、皇嗣殿下も隔殿に進まれます。

次に、神様に供える神饌(しんせん)が「膳舎(かしわしゃ)」より運ばれてきます。その神饌とは、新穀の米飯と粟飯、調理された鮮魚と乾魚、果実ほかです。ちなみにこれらの神饌は掌典を補佐する掌典補が、火鑚(き)り具でおこした火で清浄のもとに調理したものといいます。
この神饌が神嘉殿の階段下に達した時に、掌典の一人が警蹕(けいひつ)をかけます。天皇の出入りの時に、人々の注意を喚起するため、先払いが音声を発することを古から警蹕というのです。それを合図に、神嘉殿そばに臨時に設けられた奏楽舎で神楽(かぐら)歌が奏されます。
陛下は神嘉殿隔殿より正殿に進まれていきます。そして、正殿の御座に正座され、お手水の後、運び込まれた神饌を御牧手(おんひらて)というお皿に古来の手順と定めに則って、竹製のお箸で自ら盛り付けられていきます。
御牧手とは、竹のヒゴで直径12センチほどの輪を作り、それに柏の葉を使ってお皿のような形にしたものといいます。それぞれ10皿ほど、陛下は古来決められた数を守られ1皿ずつ盛り付けられては、伊勢の神宮の方向に設けられた神座の前に供えられていきます。
この神様へのご親供は、およそ1時間半に及ぶといいます。次に陛下は拝礼をされ、「御告文」を奏された後、「御米飯」と「御粟飯」、「白酒(しろき)」「黒酒(くろき)」のお酒を召し上がりになります。
この間、皇嗣殿下は正殿とは隔てられた隔殿で正座されたままです。正殿のご様子はご覧になれないといいます。正殿では采女(うねめ)という女性が奉仕し、隔殿の皇嗣殿下の下手に侍従長、皇嗣職大夫以下が着座し、ご参列の男子皇族以下諸員は神嘉殿の前庭の幄舎にいらっしゃいます。
皇嗣殿下は、天皇陛下が御米飯やお酒を召し上がる御直会(おんなおらい)の頃になって初めて、正殿正面外側の座に進まれて拝礼されます。その後、男性成人皇族方以下参列諸員が庭上正面に進み拝礼されます。なお、祭典には、掌典長より内閣総理大臣、衆議院・参議院の議長、最高裁判所長官、各国務大臣等に参列の案内が出されていて、参列者は拝礼を行います。
拝礼が終わって神饌が撤下されると、陛下はお手水の後、綾綺殿に戻られ、皇嗣殿下も退出されます。そして、この「夕の儀」と同様に「暁の儀」が行われますが、祭典中は皇后陛下はじめ女性皇族方もお慎みの時を過ごしていらっしゃいます。
いかがでしょうか。宮中祭祀の静謐で深遠な祈りが伝わってくるようです。
次の御歌は上皇后陛下が皇太子妃殿下の時の昭和54年(1979)に「夜寒」と題して詠まれたものです。
新嘗(しんじやう)のみ祭果てて還(かへ)ります
君のみ衣(ころも)夜気(やき)冷(ひ)えびえし
今まで7回に渡って、天皇陛下のお忙しい日常について触れてきました。次回からは、テーマを変えて「皇室Q&A」をお届けします。
第6回(前回)はこちら https://nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100755
第5回 https://nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100737
第4回 https://nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100736
第3回 https://nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100715
第2回 https://nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100714
第1回 https://nihonbunka.or.jp/column/koushitsu/detail/100713
皇室祭祀については、過去に発行した以下の皇室誌で触れています。
皇室54号「皇室祭祀 春~初夏」季刊誌『皇室』春第54号|https://www.nihonbunka.or.jp/item/detail/100181
皇室62号「「宮中祭祀」写真帖」季刊誌『皇室』春第62号|https://www.nihonbunka.or.jp/item/detail/100210
皇室75号「皇室の祈りの原点「皇室祭祀」」季刊誌『皇室』夏第75号|https://www.nihonbunka.or.jp/item/detail/100370
皇室82号「ご即位30年記念大特集内 宮中祭祀」季刊誌『皇室』春第82号|https://www.nihonbunka.or.jp/item/detail/100465
皇室94号「年末年始の皇室祭祀」季刊誌『皇室』春第94号|https://www.nihonbunka.or.jp/item/detail/100597