読みもの

の響き――日本の音色に魅せられて

第1回 龍笛――その4
令和7年8月13日
4 龍笛は息のスピードや構える角度で音高が変わる

低音から高音までを縦横無尽に駆け抜ける鋭い音色

 龍笛は飛鳥時代に中国から伝来したといわれています。また、能管(のうかん)や篠笛(しのぶえ)など和楽器の横笛全般の原型とも考えられています。音域は2オクターブ。雅楽の楽器の中では広い音域を持っており、低音から高音までを縦横無尽に駆け抜けます。

龍笛(鈴木敏也氏撮影)


 音の高さは定められています。1939年、西洋音楽の標準国際ピッチでA音(ラの音)が440ヘルツに定められました。雅楽では、1968年に黄鐘(おうしき/雅楽の音名の一つ)が430ヘルツと決められました。ただ龍笛は黄鐘の指使いをすると自動的に430ヘルツの高さの音が鳴る楽器ではありません。息のスピードや構える角度で音高が変わります。このあたりはフルートやサキソフォンなど洋楽の管楽器と同じですね。

 藤脇さんは、雅楽全体での龍笛の役割について、「龍笛は篳篥が奏でる旋律の合間を縫うようにメロディを奏でます。ただ、雅楽の楽曲の開始は必ず龍笛の音頭(おんど)の独奏から始まることになっていますし、『小乱声』(こらんじょう)のような笛の独奏曲もあります。篳篥が主旋律という王道だとすれば、笛はリーダーという役割を担っていると思っています」と話してくれました。

龍笛の構造とサイズ

 龍笛の構造は非常にシンプルです。藤脇さんによると――
 まず理想の全長は40~41センチ。ちなみに高麗笛は38センチ、神楽笛は45センチといいますから、その中間ですね。
 1本の竹でできているのではなく、首という頭部と、吹口(ふきぐち)や指孔のある胴部分の2本の竹を繋いで作られています。首の端を管頭(かんとう)、胴部分の端を管尻(かんじり)と呼ぶそうです。
 全長は約40センチ。そのうち胴部分が約32センチです。
 全体の形としては首が太く、管尻に向かって細くなっていきます。材料の竹を選ぶ際は、首部分になる竹が胴部分の吹口より少し太いものを選びます。数字で表すと、胴部分の外径は吹口のあたりが2.7センチ、管尻が2.2センチ程度。首の外形は2.9センチまでのものを用いるそうです。

龍笛のサイズ


ここで先に龍笛の作り方を簡単に説明しておきましょう。

1 竹を切って、首と胴部分を切り出す
2 管の内側に下地漆を塗り重ね、吹口(うたくち)と指孔(ゆびあな)を開ける
3 内側に塗った地漆を削り、正しい音が出るように内径を調整し、朱漆を塗る
4 首と胴部分を接合する
5 笛全体にふくらみをつけ、枝折れに成形した別材(蝉/せみ)を首にはめこむ
6 紐状にした樺(かば)もしくは籐(とう)を巻き付けて姿を整える
7 巻に漆を塗る
8 首に鉛の錘(おもり)を入れ、楽器としてのバランスを整え、首の先端に木栓を詰める。その後、木栓に錦の生地を張る。

 上記の各工程にいろいろなポイントがあります。今回は、龍笛製作についてもっと知りたい方のために藤脇さんに詳しくお話をうかがっています。お話は、戦後の生活様式の変化が日本の伝統文化の存続に与える影響にまで及びました。
 では次回から順番に見ていきましょう。 
(次回:8月20日掲載予定 取材・文/岡田尚子)




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