読みもの
ニッポン超絶技巧――職人さん探訪
第1回 桐箪笥の匠――その2
令和7年7月30日

大まかな工程
さあ、いよいよ桐箪笥作りを横溝さんにうかがっていきましょう。
桐箪笥は大まかにいえば、以下のような工程で作られていきます。
1. 材料→桐材の選別・製材・天日干し(アク抜き・乾燥)
2. 木地下づくり→木取り・板焼き・目直し・板接ぎ・端(はな)切り
3. 組み立て→組み手加工・本体組み立て・本体仕上げ・抽斗加工・抽斗仕込み
4. 着色→浮作り・塗装
5. 金具取りつけ
東北産、なかでも会津の桐がいい
さて、ここから話は冒頭に戻ります。私が最初に見たのは、桐箪笥になる材料の板が天日干しされているところでした。
まずは桐箪笥の材料となる桐の木についてお尋ねしました。
「質がいいのは東北産の桐です。会津、秋田、山形、岩手、青森あたりですね。寒冷な地域で育つというのがポイントで、寒いところの木は材質が締まっているんです。ただ同じ東北でも山の方と海の方とを比べると、山のほうが高品質です。海のほうが暖かいので木の成長が早くなる分、ちょっと柔らかくなるんですね。特に素晴らしいのは、会津産です。木目がしっかりしているので、カンナをかけると艶が出て木目がきれいに出ます」

桐の木は冬の間に伐採するそうです。水を吸い上げている夏に伐採すると、水分の多い材となるのでよろしくないというわけです。
「いい丸太が手に入ったという連絡をもらったら現地に見に行って、買うかどうかを判断します」
製材後ではなく、丸太の状態で判断するわけですか!
「これが難しいのです(笑)」
表面にはまだ皮がついたままの状態なので、丸太の形と断面に見られる年輪から判断するしかないとのことですが、どのように判断するのでしょうか。
「丸太がまっすぐすらっとしているのが理想的です。やはり歪んでいたり、こぶがあったりすると、内部に何かがあると想像できますからね。木目もきれいじゃない可能性が高くなる。ただ、実際は板にしてみないとわからないというのが本当のところです。まっすぐでも中が空洞という場合もありますから。年輪は均等で、なおかつ詰まっているかを見ます。越谷での修業時代を入れると、もう42年間も桐に関わってきていますが、いまだに丸太はわかりません」
伐採した後は2年ほど置いておきます。伐採した山にそのまま置いておく場合もあれば、木材屋さんに置いておく場合もあるそうです、その後、製材して板にしてさらに1年間ほど置きます。
「私のところには製材後の板の状態で届きます。以前は桐材屋さんがそれなりにいたので、後でご説明するアク抜き・乾燥が終わった状態のものを届けてもらっていました。でも今は桐材屋さんがほとんどいなくなったので、うちでアク抜きをして乾燥させます」
天日干しの2つの作用
丸太購入後、製材されて届けられた板は、屋外に並べられます。「天日干し」をするわけですが、これは乾燥させるだけの工程ではありません。
「天日干しには2つの作用があります。乾燥とアク抜きです。わざと雨に打たせることによって、木の内部のアクを外に排出させるんです。梅雨から夏にかけての高温多湿の時期の雨のほうがアクが出やすいですね」

「アク」というのは、もともと木材に含まれるタンニンやりグリンなどの水溶性分を指します。水に溶けるので、雨に打たせて排出させるというわけです。
木の両面ともアク抜きをしなくてはならないので、冬は2か月に1度、夏は1か月に1度の頻度でひっくり返しながら、約1年かけて天日干しを行います。
アクが抜けてきたかどうかは色でわかります。天日干しをする前の色は白と黄色の中間、いわゆる桐の色ですが、雨に打たれていくうちに徐々に灰色から黒っぽい色へと変わってきます。
「この色はアクが外に出てきたものなので、表面を削ると桐本来のきれいな白い色が出てきます」
板が天日干しされているすぐそばの倉庫に入ってみると、さまざまな長さの板が所狭しと立てかけられていました。

ここにあるのは天日干しが終わった板だそうです。と、横溝さんがひとつの板を指し、「これは柾板(まさいた)ですが、柾板の中でも特に素晴らしい板ですね。これは柾丸太で仕入れた板です」と説明を始めてくれました。
(次回:8月6日掲載予定 取材・文/岡田尚子)