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連載 方言「知らんけどね」

第18回「ひともじのぐるぐる」熊本弁
令和7年12月25日

第18回「ひともじのぐるぐる」熊本弁
 今年も残すところあと1週間。年末年始は故郷に帰ってゆったり過ごすという人も多いだろう。というわけで、今回は、いつもと少し趣向を変えて、熊本弁そのものではなく、独特の表現をする郷土料理について触れてみたい。
 熊本の郷土料理といえば、「馬刺し」や「からし蓮根」、「豚骨ラーメン」といったところが有名だが、今回のタイトルに出した「ひともじのぐるぐる」も、なんと料理名だ。
 まずは「ひともじ」から説明すると、これは「一文字」とも書いて、「わけぎ」のことだ。中でも「ひともじ」は熊本在来種のわけぎなのだとか。それで、なぜ「ぐるぐる」なのかというと、そのわけぎをさっと茹でて、一本一本ぐるぐる巻きにして束ねる。それに酢味噌などをつけて食すことから「ひともじのぐるぐる」と言うのである。
 だから、TVの「ぐるナイ」の正式な番組名を初めて聞いた時には、奇妙な感じがしたことを覚えている。それはともかく、ひともじを茹でる時には、中が空洞で袋状になっている葉の部分が膨らんで爆(は)ぜることがあるので、先端を切ったりつぶしておくといいという。これをアテにすると、腹もあまり膨らまず、酒量が増えることは間違いない。
 ちなみに熊本は焼酎を飲むことが多いと思われている人も多いだろうが、日本酒の方が多いと思う。焼酎ならば、麦や芋ではなく米焼酎である。
 また、熊本の醤油は甘い。これは熊本に限らず、九州全般に言えることだと思うが、なにせもともと砂糖が混ぜられていることもある。この甘さが、馬刺しなどにつけるのには大層、合っているのだが、もう40年以上も熊本を離れて暮らしている筆者には、辛いこともある。
 人の味覚というのは不思議なもので、筆者はこの醤油の甘さについて、熊本を離れて10年以上も経ったときに初めて気づいたものである。ある正月に実家で刺身を食べていたら、突然、「甘い!」と感じたのだ。しょっぱい東京の醤油を使い続けて10年ほどが経った頃のことだった。
 それはそれとして、有明海産の白身魚の旨いこと! そんな時は、こう言う。
「やーばなし、うまか!」
「やーばなし」とは、「とても」とか「大変」「大層」といった意味だ。「やるばなし」や「やっばなし」とも言うが、なぜ、そういう意味になるのかは筆者にも分からない。
文/伊豆野 誠
前回はこちら https://nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100768
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