読みもの

第19回「いきなりだご」熊本弁
今回も前回に続いて、熊本の郷土料理について触れていく。
熊本で車を走らせていると、「ラーメン」とか「うどん」といった幟に交じって「だご汁(じる)」と書かれたものに出くわすことがある。特に郊外に行くと多い。
この「だご」とは何かというと、「だんご」のことで、「だご汁」とは「すいとん」のことである。ちなみに、出汁(だし)は「あご」(とびうお)が多い。
また、「いきなりだご」というものがある。「いきなりステーキ」ではあるまいし、これは何かというと、中に「さつまいも」と「あん」が入った「おだんご」のことだ。
これをなぜ「いきなりだご」というかというと、一般には、「いきなり」に「簡単・手早く・すぐに」という意味があり、短時間で簡単につくることができ、急な来客の際でもすぐに出せるというのが由来と言われているようだ。しかし、筆者には疑問に思われる。
そういう意味で「いきなり」を使ったことはあまりないし、やはり「突然」とか「やぶからぼうに」いった意味で使うことが多いと思うからだ。この「いきなりだご」は、薄皮に覆われている。昔は、中身がさつまいもだけという簡素なものだったというから、その「いきなり」のさつまいも感ゆえに、この名称になったのではないかと勝手に思っている。実際、中にさつまいもしか入っていないものを食べると、いきなりむせたりするのだ。
ちなみに熊本では「さつまいも」のことは「からいも(唐芋)」ということが多い。子供の時に筆者は、なぜ、こんなに甘い芋を「辛いも」というのか、真剣に悩んだことを覚えている。実際、当て字で「辛いも」と書かれている場合もあるからややこしいのだ。
また、「どんかっちょ」と聞いて分かる人はどれくらいいるだろうか? これは川や湖の物陰に潜む愛らしくも奇妙なハゼ類の魚のことである。
料理そのものに話を戻すと、「たいぴーえん(太平燕)」はすっかりメジャーになった感がある。春雨を中心とした具材たっぷりの中華風スープである。また、新潟県の郷土料理と紹介されることが多い「のっぺ(汁)」もよく食される。熊本の場合は、その食材を全てサイコロ状に切ることが多い。実家では、正月など家に人々が集まる機会には大鍋で作られていた。
熊本では酒に酔うことを「ええくらう」という。正月や法事など、親戚などが集まって酒に酔った父親が、最後の「締め」として「のっぺ」を所望して母親によく言っていた。
「あー、もう、ええくろた。のっぺば、はいよ」
(あー、すっかり酔っぱらった。のっぺ汁をちょうだい)
「はいよ」とは「ください」の意味である。
文/伊豆野 誠
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