読みもの
とりあえず着物を体に巻き付けて……私が子ども時代の寝間着の次にちゃんと着物を着たのは40代後半になってからです。40代半ばまでは着物を畳むことすらできませんでした。成人式に振袖を着ることもなく、結婚してから義母が訪問着を作ってくれたけど、一回着たら畳めないので姉にわざわざ家に来てもらって畳んでもらうという体たらく……。
私の着物ダメダメエピソードはたくさんあって書ききれないので、またまたいずれ詳しく書きますが、今回は、そんな私でも着物が好きになり、下手でも自分ひとりで着られるようになった、という話です。
どうやって覚えたかはまた別に書きますが、私のお勧めは、子どもの頃の寝間着と同じで、とりあえず着物を体に巻き付けて紐で固定する。これをやってみる。それだけです。
え? 着物って襦袢(じゅばん)とか半襟とか帯とか帯締めとかいろいろあって難しいでしょ? 体に巻き付けるだけってどういうこと?
それに着物って高いじゃん? 汚したらどうするの? 食事するのも怖いし、気軽に着られないよ…。
と、着物のハードルを自分でどんどん上げていませんか?
「伝統的なカジュアルな着付けですよ?」
私の着物ライフは古着屋さんで買った300円のウールから始まりました。
下の写真を見てください。本当に300円だったんですよ! 安いからと言って手荒に扱うわけではないのですが、この安さのおかげで着物を着るハードルがうんと下がりました。(何十万もした着物よりは気軽に着られますから!)
中に着ているのはタートルネックのカットソー。これは、明治時代の書生さんがよく着物の下にスタンドカラーのシャツを着ていたのを真似しました。明治・大正・昭和初期くらいまで、こういう着方は普通だったんです。

中に襦袢を着なくても、着物が汚れないようスタンドカラーやハイネックのシャツを着るのは昔ながらの着方ですから、誰に恥じることなく着てOK!
もし着物警察に捕まって文句を言われたら、ぜひ「これは伝統的なカジュアルな着方ですよ?」と言ってあげてください。
ちなみに下半身はスパッツをはいています。「裾除け」も無し。素肌が着物に触れなければOK。夏ならステテコでもいいですね!
襦袢や半襟なしで着るこの着方は、ものすごく楽ちん!5分で着られます。
帯はチャンピオン・ベルトです!
それから、着物にベルトについて。
よく「すごい発想!」とほめてくださる人もいるのですが、いえいえ、そんなことはありません。ベルトも帯も衣服に巻きつけるものだから巻いてみました、というだけのことなんです。
実はこの考え、40年ほど前の1980年代の話ですが、ある着物好きの友人から聞いたことがもとになっています。
ある日、彼女が着物を着て出かけたのを近所の子どもたちが見て、「わー、太いベルトしてる!」と言ったのだそうです。着物の帯が子どもたちにとっては「太いベルト」なんだ…。それくらい着物のことがわからない時代になってしまったんだ…。と、友人は嘆いていました。このころすでに着物離れが始まっており、子どもにとって着物は全く未知の存在になっていたということなんですね。
とても嘆かわしい話なんですが、当時の私は「へー、子どもにとって帯はベルトなんだー。面白ーい」なんて、危機感も感じず、へらへらしていました。
でも、そのとき植え付けられた「帯=太いベルト」というイメージは、40年後、「着物に帯を締めるならベルトを締めてもいいじゃん」という考えにすんなりつなげてくれたのです。

まずは家の中で
襦袢無し、帯も無し、こんなふざけた着方をするなんて!と怒る方もいらっしゃるでしょうが、でもね、今、日本中で箪笥の肥やしになっている着物は一体何百万枚あるんでしょうか? しまわれたままの着物、着てあげましょうよ。着たことがない、着付けができない、といろいろ理由をつけて着ない人が多いのですが、でも、ほら、この着方ならだれでもすぐ着られますから!
家の中でまず着てみるだけでいいんです。家の中でくつろぐとき、手持ちの着物を羽織り、ベルトでシュッと留める。もちろん高価な晴れ着ではなく、浴衣でもいいし、古着屋さんで買った着物を部屋着として着てみるのはどうでしょう。
着付けを覚えなくても着物が着られると思うと、ちょっといい気分です。いったん着てみると面白いし楽しいし、なんだかワンランク上の暮らしになったような気がします!
外に着ていくのはまだできなくても、まずは家の中だけで着物ライフを楽しみましょう! それが第一歩です!
前回はこちら https://www.nihonbunka.or.jp/column/yomimono/detail/100870
●赤星たみこ/1957年、宮崎県生まれ。千葉県八街市在住の漫画家にしてエッセイスト。映画化、ドラマ化された作品多数。猫と着物と生活の知恵を愛する石鹸ユーザー。
アバンギャルド(Avant-garde)とは、既成概念を打ち破り、前衛的で革新的な表現を追及する芸術スタイルのこと。オバンギャルドは、前衛的で既成概念を打ち破りつつ、長く生きてきたオバサンとしての矜持も併せ持つ生き方のこと。ワタクシ赤星の造語です。
