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ニッポン超絶技巧――職人さん探訪

第1回 桐箪笥の匠――その7
令和7年9月3日
6 着色と金具取り付け

着色には4種類もの方法がある
 ホームページによれば、横溝タンス店では次の4種類の着色方法を手がけています。桐材の湿気調節機能を発揮できるよう、いずれも自然の素材を使っています。

① 砥の粉(とのこ)仕上げ→最も一般的な着色方法で、砥の粉とヤシャの実の煮汁を混ぜたものを塗ります。ヤシャというのはカバノキ科の植物で、松ぼっくりに似た実をつけます。この仕上げは私たちがイメージするクリーム色の桐箪笥ですね。とても上品です。
砥の粉仕上げの整理箪笥(横溝さん提供写真)


② 時代仕上げ→箪笥の表面をガスバーナーで焼いて、砥の粉を塗り、木目を出します。古びた感じの色合いがスタイリッシュに見えます。
時代仕上げにリフォームされた桐箪笥(横溝さん提供写真)


③ オイル仕上げ→自然塗料のオイルを使用します。汚れに強く、手入れも簡単で、洋風のリビングにも合います。
オイル仕上げの刀箪笥(横溝さん提供写真)


④ 拭き漆仕上げ→漆を数回に分けて、塗り重ねます。色は茶色で、汚れに強いです。伝統的技法で、独特の雰囲気が漂います。
拭き漆仕上げ(横溝さん提供写真)


 取材当日、着色担当の井出富久さんは砥の粉仕上げの作業中でした。なにか見慣れない道具を使って抽斗の全面をこすっています。
「今、浮造り(うづくり)をかけています」
 浮造りとは萱(かや)の根っこを束ねたもので、これで木の表面をこすると、木目の柔らかい部分が削り取られ、固い部分だけが残ります。そこに砥の粉を塗ると、削られて凹んだ部分に砥の粉が残り、浮き上がって見えるので木目の表情が豊かになるというわけです。

浮造りをかける井出さん

浮造り


 着色が終了すると、金具を取りつけます。横溝タンス店では、井出さんが着色に引き続いて担当しています。横溝タンス店では木地を作るところから着色、金具取り付けまで一貫して行えるようになっているわけですね。
 着色し、金具を取り付けられた桐箪笥は、問屋さんへと運ばれていきます。木取りから納品まで要する時間は、標準的な大きさの桐箪笥(幅1060ミリ 奥行455ミリ 高さ1750ミリ)で約1か月間ということです。
「小さな整理ダンスなら1週間~10日間くらいです。ただ、注文を受けてすぐに取りかかれるわけではありません。先に受けている注文がありますし、修理の依頼も多いので、今、注文をいただくと4か月後から半年後くらいの納品になると思います」

 確かに工場にはさまざまな製作段階の桐箪笥が置かれていました。桐箪笥の工程には寝かせる時間も多いので、いろいろな段階のものがあるわけですね。これから修理される箪笥もありました。数十年前、もしかすると百年くらい前のものかなと思われるような箪笥もあって、最初に横溝さんがおっしゃった「桐箪笥は100年先まで使い続けられるものです」という言葉がよみがえってきました。
 ちなみに現在は、1年間に新規の注文は18件、修理依頼は60件あるとのことです。
(次回:9月11日掲載予定 取材・文/岡田尚子)
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