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8 龍笛の作り方「その4」――いよいよ最終工程さあ、龍笛がだいぶ仕上がってきました。完成までもう一息です。
6 樺巻に漆を塗る
樺巻(籐巻)を終えると、上から漆を塗るのですが、この工程には時間がかかります。
まず樺巻の上に地漆を叩き込むように漆刷毛を使って塗り、室(むろ)に2~3日間入れて乾かし、巻を固定します。次に表面の凹凸をなくすために、紙やすりを巻き付けた道具で慎重に研いでいきます。
次に塗立(ぬりたて)という黒漆に、朱砂という赤色の粉を好みの分量で混ぜて、巻に丸みが出るように何度も塗り重ねます。

「塗る回数は決まっていませんが、だいたい10回は塗ります。塗ったら室に2~日入れ、乾いたらまた塗って室に入れるという作業を繰り返すので、非常に時間がかかります」
最後の2回くらいは自分の好みの色で塗るそうです。
そして瀬〆(せしめ)に炭粉(すみのこ)を混ぜたものを巻の間の溝に塗る「塗り込み」という工程を行い、1~2日間ほど乾かします。
龍笛が大変な手間をかけて作られているのがよくわかりますね。

7 首に鉛の錘を入れ、楽器としてのバランスを整え、首先端に木栓を詰める
いよいよ最後の工程です。首の部分に紙で巻いた鉛を重りとして入れます。
「鉛を入れるのは、龍笛と能管だけです。この鉛の存在が、篠笛など他の横笛と龍笛との一番の違いですね」
なぜ重りを入れるのでしょう。
雅楽に関する先行文献を集成した『楽家録』(1690年成立)には、「首中に鉛を納める法」として「鉛を納めるのは、横笛および高麗笛は、吹口を真ん中とし、上下の重さを同じとするのである。(中略)首を軽くすると、演奏する際に持ちにくい。このため、鉛を納めるのである」とあります。

「龍笛を構えてみるとすぐわかるのですが、首が重いほうが構えが安定して吹きやすくなるんですよ。重りにはもう一つ大きな役目があって、龍笛が他の笛よりも大きな音を出せるのは、この重りのおかげなんです」
鉛は接着しません。後々に重さの調整をすることが多々あるためです。

最後に、吹口奥の反射板(壁)となる部分に和紙をセットして蜜蝋(みつろう)を流し込んで固め、管頭に赤系の金襴(きんらん)生地の裂(きれ)でくるんだ木栓を詰めると、龍笛の出来上がりです。
(次回:9月17日掲載予定 取材・文/岡田尚子)